第二夜
著者:shauna


 日はどっぷりと暮れ、月明かりだけが静かに降る夏の夜。
 
 躑躅森夏音が部活合宿の許可をとったことで、こんな夜でも学校に居られるわけだが、みんなで夜の学校にお泊りだというのにちっともワクワクしない・・・むしろ、嫌気しかしない有栖川瑛琶は浴衣姿で学生服姿の楠木明と共に部室のドアをノックした。

 「入りたければ合言葉を言いなさい!!」

 聞いたことのある部長の声だった。

 「帰りたい、帰らなきゃ、帰る。」

 今の一言に少しイラッとした瑛琶がそう呟くと、同時に・・・

 「I show a photograph generally」

 中からそんな台詞が響く。
 
 本当にあのバカ女!!!わざわざshow A Bなんて熟語を使って攻撃するなんて・・・
 覚えてなさい!!!絶対に仕返ししてあげるから!!!

 静かにドアを開き、夏音がニヒッっと嬉しそうに笑う。

 「あなた達で最後よ。」

 そう言って夏音が指差す先。

 そこにはすでにフルメンバーが揃えられていた。
 
 科学研究部からは悠真と紗綾。そしてその友達だという羽崎陸斗と瀬野秋波。
 そして、特別ゲストとして瑛琶と夏音の1年生の時の同級生であり、友達でもある宮野恵理が普段とは様変わりした部室に座っていた。

 「随分と手を加えたわね。」

 瑛琶が呆れ交じりにそう呟く。
 というのも、いつも意外と本などが散乱している部室は綺麗に片づけられ、どこから持って来たのは畳が敷き詰められており、蛍光灯では無く行燈で明かりが取られていた。
 床には人数分の座布団が敷かれ、そこに全員が円になって座る形だ。

 「畳は茶道部の部室から引っぺ剥してきたわ!!!」
 「俺がね!!!」
 夏音の言葉に大声で悠真が反論する。

 「行燈は紗綾ちゃんの家から持ってきてもらった。」
 「はい・・・家には使わない家具がそこそこ余ってますから・・・」
 
 家具って余るものなんだ〜・・・

 「じゃあ、早速準備するわよ!!!」

 夏音がそう宣言し、棚の向こう側からビックリするぐらい大きな段ボール箱を出す。
 
 「まずは、これ。」

 そう言って取り出すのは洗面器に水を張ったモノだった。

 「悠真、これを北東に置きなさい。水盆の代わりよ。」
 「えっと・・・北東ってどっちですか?」

 キョロキョロと見回す悠真に・・・・

 「チョア!!!」

 夏音の眼つぶしが飛ぶ。

 「何すんですか!!!!」
 「あっちよ。」

 いや、どうやらただ指を差しただけだった。

 「だったらもっと静かにやってください!!!最大限の譲歩として、俺の人生に障害が出ない程度って条件付けますから!!!」

 「まったく・・・これだから悠真は・・・」
 「その出来の悪い息子を見る母親のような眼を止めてください!!」
 「そんなんだからいつまでたっても副部長になれないのよ。」
 「だったらいっそ、このままでいいですよ。母さん。」
 
 ―バスッ(夏音が悠真をハリセンで殴る音)―

 「誰が母さんか!!殴るわよ!!!」
 「殴った後で言わないでください!!」
 「そう言うお前は父さんだ!!!」
 「落ち着いてください部長!!意味分かりません!!!」

 あの〜・・・みんなおいてけぼりなんですけど〜・・・
 悠真が渋々洗面器を夏音の指示通り置く。

 「じゃあ、次ね。次はこの蝋燭よ。」

 段ボール箱からゴロゴロと出てくる蝋燭。

 その一本に夏音がまず火打石で火を付けた。
 
 「この蝋燭から火を移して・・・」
 夏音が再びゴソゴソと短ボールをまさぐり、そして・・・
 
 明らかに段ボール箱よりも長い燭台を取り出した。

 「この燭台を使って八方位に立てなさい。」

 「うん。ちょっと待とうか。」×2

 それに同時に同音で意見したのは恵理と瑛琶だった。

 「今明らかにおかしな現象が起きたよね。」
 「何が?」
 「段ボール箱の縦、横、高さ。その何処をとってもその燭台よりも短い気がするんだけど・・・」
 「それが?」
 「どうやってそこに入ってたのかな〜って」×2
 
 「乙女にはいろいろ秘密があるのよ。」

 乙女の秘密で片付けられた!!!

 「ってか部長、乙女だったんですね。」

 ―パァン!!!―(さっきよりも数段強いハリセンの音)

 言われた通りに燭台を部屋の八方に設置し、

 「よし、これで準備は終わり。」

 夏音がそう宣言した。

 「百物語するのに準備が必要なの?」

 恵理の問いに夏音が頷く。

 「本当はカミソリとかもっといろいろ必要なんだけどね。」

 自身が最初に火を付けた蝋燭をフッと夏音が吹き消す。

 「さあ、始めましょう。百物語を・・・」



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